それはGHから程近い屋台での出来事だった。上半身はだかになり汗をだらだ ら流している真っ黒な(いや夜で灯りも満足にないのだから誰でも黒く見えるの
だが)男が食べているドンブリには、ぶっとい骨がゴロンと置かれていた。
ここで『美味しんぼ』第10巻、究極のカレー編(適当)を想い起してもらいたい。あの骨髄カレーを連想した人も多いことだろうが、まさにあの骨髄そのものが目の前にあるのだ。
私は男の食べているそのドンブリを指差して、 「これと同じ物を下さい。」 と、屋台のおばさんに言ったつもりであるが、もちろん通じたかどうかは神のみ
ぞ知るである。予想に違わず、大きな鍋からドンブリに盛られて出されたものは、 単なる骨付き肉スープだったのである。
しかし、これが実にうまいのである。が、骨が細い。となりの男の骨とは雲泥 の差である。するとこの肉は豚か?いやこんな味じゃない。すると犬か?猫か?
まあ良い。美味しかったので牛という事にしといてやる。骨髄を突っつき、ゼラ チン質クニュクニュいわせ、柔らかい肉をハフハフいいながら食べるのを、この
世の幸せと言わずして何と言おう(ホントはもっと美味いものはあるけど、ここ ではナイショにしておく)。
点数をつけるなら98点、屋台のおばさんがかわいい娘さんだったら100点だっ たのに。おしい。
だいぶ前置きが長くなってしまった。早速本題に入いろう。美味い美味いとい いながらも、私の目の前には気になる物が山盛りになったお盆が置かれていた。
黒光りした丸っこい形をしたものである。 「これは、タイ・イサーン地方で食べられているメンダーか?いや、それにして
は小さい。するとこれが噂に聞く食用ゴキブリか?」 なんて事は一切考えず、見たものズバリ元阪神の源五郎丸、いや、ゲンゴロウそ
のものであった。 「ほほう、カンボジアの人はこうゆう物が好きなのか。」 と真面目に考えていたと言いたいところだが、
「こんなの食くえないよなあ。」 心の奥の方では、そう叫んでいたのであった。
私の右隣には、なんてゆう名前なのかは知らないが、米から作った酒(アルコー ル度数はそう高くはない)で、既にできあがっている怪しいオヤジが鎮座してお
り、何気にそのオヤジはゲンゴロウを一匹手に取り、足をもぎ取り羽をむしりだ した。 「そうやって食べるのか。そりゃそうだ、足と羽は硬そうだ。」
と、気楽に構えていたのであるが、そのオヤジは手に持ったゲンゴロウを、私の 目の前に差し出したのある。 「いや。私は結構ですからおじさんどうぞ。」
と言いたかったが、不幸にも私はクメール語だけが不得意だったのと、ここで断 ると今後の日本−カンボジア関係に悪い影響を与えるやも知れず、日本語で
「いただきます。」 と言っておいた。
おそろおそるその柿の種、いやゲンゴロウを受け取り、見よう見真似で口の中 で腹をしごいて食べてみた。その味はというと、ほろ苦いレモンの味なんて事は
全く有るわけも無く、単にゲンゴロウの味(?)がした。(なんじゃ、そりゃ)
本当のところは、調味料+初体験の味でちょっと形容し難いので悪しからず。
ゲンゴロウの冥福を祈る。
激闘のカキ氷編に続く。
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